大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(行ス)4号 判決

抗告人 塩釜丸栄造船株式会社

被抗告人 建設大臣

主文

本件抗告はいずれもこれを棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、本件事業の認定に基づき収用委員会は裁決を急いでおり、これが新聞等に公表されたため、抗告会社の造船事業の継続に対する内容から、その取引先より注文取消の通告がなされており、このような事態が長びけば、抗告会社の造船事業は致命的な打撃を受けること必要の状況にあるから、抗告人らの蒙る回復因難な損害を避けるため本件事業の認定の効力を停止すべき緊急の必要があることは明らかであり、従つて抗告人らの本件申立を右の必要性を欠くとの理由から却下した原決定は違法であるというに帰着する。

しかしながら土地収用法にする事業認定の告示(同法第二六条第一項)がなされ、これに基づいて土地細目の公告(同法第三三条)がなされても、公告のあつた土地につきその所有者又は関係人は収用委員会の裁決がある迄は、明らかに事業に支障を及ぼすような形質の変更をしない限り都道府県知事の許可なしに自由に使用ができるのであるから、(同法第三四条参照)抗告人らが、右制限の範囲内において、従来どおりその造船事業を継続することを妨げられないことは原決定の説示するとおりであつて、抗告人らの主張のように本件事業認定がなされたゝめ仮令抗告会社に対する取引上の注文が取り消されたり一時的に減少したりして、損害を蒙ることがあるとしても、それは金銭賠償により回複し難いものであることは速断しえない。従つて本件は行政事件訴訟法第二五条第二項に所謂、回復の因難な損害を避けるため緊急の必要があるときに該当することは認め難いから、抗告人らの本件申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告はいずれも理由がない。

よつて主文のとおり決定する。

(判事 奥野利一 野木泰 真船孝允)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例